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サムと優しいロバ

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サムと優しいロバ

何事もなかった様な日常が過ぎる。スキッパーキサムとの日常もいつも通り。
いやサムが居てくれるからこその日常を送る事ができるのだ。

ふと気づくと思い出がよぎる。込み上げて来るものがある。行き場のない思いも。そんな時サムを見るといつもと変わらず見返してくれている。
サムに触って温もり感じサムと今此処にいる現実を実感する。

大分前にお泊まり宿を一気に予約した。
特に何があるわけではない、「何もない事が一番。」そう良く言ってたが、そう思う。
心穏やかな日々が過ごせるのが一番いい。
情緒不安定気味なのか何をしてもつまらない。あれほど楽しみにしていたサムとのお泊まりもどうでもよくなっている。

予約した時の浮き浮きして、待ち遠しくて仕方なかった思いは何処かへ行ってしまっているかの様に気持ちが萎えている。こんな時に楽しめる訳がないし、不謹慎なのではないのだろうか?どうすべきか分からない。上手く気持ちの折り合いをつけられず、何をやっているんだと行き場のない思いに押されて、キャンセルしてしまった。

とても感じの良いお宿で、またの機会と、丁寧なメールを頂いた。
良い所なんだ。行きたかった。キャンセルしてからまた悩んだ。何ヶ月も前から楽しみにしていたのに、悪いことをするわけでは無いのに、何処にも行ってはいけない。静かにしていなくてはいけない。悼まなくてはならない。そう思い込み、毎日毎日黒ずくめだった。スキッパーキサムと同じ全身まっ黒だ。
バカみたいだけれどそうした。そうする事で何かが変わるわけではないのに。喪に服している気になっていた。誰に伝わるわけではなく、自己満足なのだが、いろいろと考え直す機会にもなった。

残された時間とサム時間。
今を大事にしなくてはいけない。今を。サムと一緒にいてサムを見ていると強く思う。。スキッパーキサムは人間時間より数倍早い時間の流れの中で生きている。今を一生懸命生きている。当たり前のことだが、今のサムは今だけ。お互い歳をとる。今できる事としたい事は将来できないかもしれない。歳をとるって出来た事が出来なくなる。
当たり前の事をサムを見ていて考え、そうあらねばならないと言う縛りが解けた。
そう思ったらやる事は1つ!キャンセルしたお宿にキャンセルをキャンセルして貰えますか?の連絡だ。

何ヶ月も前から楽しみにしていて、サムとずっと一緒に過ごす大切な時間。今この時は二度とない的な感じでサービスエリアでも今迄スルーしていたお店も見たり、ちょっと立ち寄るだけでもスキッパーキサムを降ろして、一緒に歩いた。

南ヶ丘牧場では、とても可愛らしい大人しそうなロバ達が放牧場にいて、なんでも興味のあるスキッパーキですから近づいて行くと、近くにいたロバが更に接近してくれて、サムの顔の高さの柵である網の間から、顔(口)を出せるだけ差し出してくれたのだ。
優しそうな睫毛が長くて大きな目。ある意味とても無防備な状態。何故そこ迄してくれるのだろう?とサムの事を気に入ってくれたのかな?と思っていると、サムも近づき、差し出されたロバの頬に顔を寄せたのだ。

何とも微笑ましい光景。こんなに優しいロバは初めてだ。サムはどう思っているか分からないが、もの凄く嬉しかった。堪らなく嬉しかった。名残惜しいがロバに見送られその場を後にした。

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