サムと山越え

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サムと山越え

スキッパーキサムと更に悪路を歩き続けた。
階段だったであろう所は、道標があったところから僅かだった。それも安全な階段というものではなく。階段として昔は使われていただろう丸太が朽ちて崩れている箇所が殆どで、何ともうら寂しいものだった。その階段さえも無くなり、単なる道らしき所。草が生えていない、乾いた地肌が剥き出しになっているただの坂を降り続けた。一旦坂が緩やかになったので、これで山から出れる!良かったと思っていたら、下り坂が上りに変わった。
泣きたい感じだ。先が分からない怖さ。だが緊張しているせいか、疲れとかは感じない。ともかく先に進まねばならない。遭難したとしても、ただ待っていては無駄に時間と体力を奪われてしまう。
一般的には、いい季節なのだが、夜になれば冷え込んでくる。暗くなったら足元も分からない。危険度が増す。陽があるうちに山を抜け出したい。

今現在、この山の中でスキッパーキのサムと共に迷っている事を誰一人として知らないのだ。自力で脱出できなくても、誰も捜索に来てはくれない。存在すらないのだ。

通常山道を歩く際には、登山口で、必ず記名する。カウンターを押す。それさえなかったのだから、完璧に遊歩道扱いなのだろう。だがここには、あるべきはずの道がない。散歩するという目的があるようには作られていない。トレッキングルートであれば道でなくても、ルートの一部と思えば、準備をして経験があれば何とかなるかも知れない。
だが、遊歩道を、一回りするつもりで来ただけの、何の経験も準備もないど素人。荒れ果てた元は道であろうところを、軽装のしかもスニーカーも壊れそうなほど歩いている。恨み言の一つも言いたくなってくる。
だけどスキッパーキサムを見ると、相変わらず一緒に何事も無いように歩いている。嫌がりもせず楽しんでいる様に足を運ぶ。

サムが傍にいてくれることが励みになり、スキッパーキサムの小さな体から強さを感じとる事が出来る。それが前に進める原動力。
そうサムがいるから平気だ!凹みそうな時、サムと一緒だと言う事を有り難く噛み締め余計な考えを振り払うことができる。

暫く歩いて行くと新しい音が聞こえて来た。耳をすますと「水音」だ。川か?滝か?周りの景色も変わってきている気がする。悪路も峠を越えた様だ。
道も下り坂、間違いなく山裾へ向かっている。先程の道なき道とは違う。今まで歩いた道は全く管理されている気配が無く放置されている状態だった。おそらく昔はそれなりに人も来ていたのだろうが、今となっては来る人も無く、忘れられている様な所だったに違いない。通ってきたところの草や木がカサついていた。山の上という事も関係しているのだろうけれど、雨も少ないのだろう。それに対して、ここの草木は緑緑している。水が確保できているという事だ。水音が聞けたおかげで、あと少しでこの迷い道。遭難もどきから脱却できる!新たな希望。出口はもうすぐ。そう思えサムと歩みを続けた。

水音が大きくなる。地面も様子が変わってきた。今迄の誰も通っていない荒れた感じではなく、若干道らしきというか、歩きやすくなってきた。緩やかになってきて、誰かがこの道をたまに歩くのではないのかという雰囲気になってきたように思えた。

ほぼ休みなく歩いてきた。3時間以上は歩いている。平らな道ではなく荒地で坂を。
そのような状況を心折れることなく歩いてこれたのは、スキッパーキサムがいたお陰だ。サムがいなかったらここまでずんずん歩いてこれたかどうかも怪しい。何も言わず、一緒にいてくれてありがとうサム。何度も思う。サムを見て触れてきたからこそ、勇気が湧いたのが事実。あと少し。もう少し。水音を頼りに気を付けながら歩く。気のせいか鳥の声が聞こえた気がした。そして水音も大きさを増している。落ちるような水音がする。水音に惹かれる様に歩みを止めることなく進んでいく。

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